徳島地方裁判所 昭和26年(行)21号 判決
原告 片山八郎
被告 川島税務署長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が原告の昭和二十四年分所得金額金三十二万二千八百円、この所得税額金十一万三千七百八十円と決定した処分は、之を取消し右所得金額を金十五万四千円、この所得税額金三万百円と変更する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める旨申立て、その請求原因として、原告は肩書地において、靴・鞄・運動具等を販売、修理することを業とするものであるが、昭和二十四年度の原告の右事業経営による総収入額は三十三万三千四百八十円で、これの必要経費、外註工賃、償却金等を合計した十九万八千六百二十円を差引いた、十三万四千七百九十八円が同年度の所得額となるところ、経費差引に些かの誤算があつて十五万四千円と計上して所定期間内に被告税務署宛確定申告を提出した。然るに被告税務署は、同年度における原告の所得金額を五十万円、この税額を二十二万百円と決定して原告に通知して来たので、原告は高松国税局長に対し審査の請求をなしたところ、十八ケ月以上を経過した昭和二十六年十月四日になつて被告税務署名義で原告の所得金額を三十二万二千八百円、この税額十一万三千七百八十円と訂正通知して来た。然しながら原告の当該年度の所得は前述の如くで被告の更正決定には不服であるから、その取消変更を求めるため本訴に及んだ。被告の本案前の抗弁に対し原告が審査請求書を被告税務署長宛に為したことは認めるが、右審査請求用紙は被告税務署が、その書式を署内に備付けてあつたのを使用したのであるから、名宛が国税局長に対するものでなかつたことについて原告に責はなく、且つ被告税務署長は審査請求の経由庁であり、本件年度当時は事実上同署長が審査に関する事務を執行していたのであるから、審査請求に対する調査、裁決をなすについて何等不都合の起ることもない。原告が所定期間内たる昭和二十五年三月二十二日に前記審査請求書を提出し、同日被告において之を受理し、その後三ケ月以上経過するも之に対する裁決が為されないので行政事件訴訟特例法第二条但書により出訴した。本案の主張に対し、被告は原告の所得を更正決定するに当つて何等根拠となるべき資料もなくただ漫然たる見込額を以て割当てたと推認されるのであるが、仮りに主張の如く原告の生計費を推定計算し、いわゆる間接認定の方法を以てその所得額を逆算計上したとしても、かような方法による所得額の認定は昭和二十五年四月施行の新所得税法が始めて明文で規定した一方法であり、本係争年度当時は法律上何等規定されていなかつたのであるから、右方法によつてなした被告の認定の方法自体違法の行為であり、しかも被告の推定した原告の生計費も亦極めてずさんなもので真実のそれとは甚しい差違がある。原告の当該年度の生計に要した費用は、電燈料二千四百七十二円、衣類一万九千四百八十円、寝具千二百円、その他の被服費三千四百二十円、主食費二万三千九百八十八円(食糧営団に支払つた分)、調味料四千七百四十円、副食費一万二千三百七円(主食不足分を含む。主食は配給以外に購入したことはない)薪炭料五千八百五十円、所得税二万六千六百円(本件年度分)住民税、その他五千円、家屋税の中四割五百三十二円八十銭、宅地租税の四割八十八円八十銭、交際費四千百二十五円、教育費一万二千八百六十六円、保険掛金の四割七百六十円、その他八千円(煙草代等)合計十三万千四百三十円(銭切下げ)である。又原告の昭和二十四年度の収支関係は次のとおりである。
(一) 総収入百三十五万二千五百十円で、その内訳は年末棚卸高二十九万九千七百三十二円(被告の主張する年初棚卸製品売上高は本項に含まれている。)普通商品売上高七十三万三千四百三十二円、薄利商品売上高九千九百六十九円、資材活用加工賃二十一万五千百二十一円、編上靴改造賃九万四千二百五十六円。
総支出百二十一万七千七百十四円、その内訳は年初棚卸高二十七万九千八百七十四円、(被告主張の年初製品棚卸高八万千四百円、年初資材棚卸高六千七百七十一円は何れも本項に含まれている)普通商品仕入高五十八万六千七百四十六円、薄利商品仕入高九千五十九円、革等資材仕入高十四万三千四百十四円、外註工賃六万二千円、諸経費十三万七百二十五円、償却金五千八百九十六円。
右商品、資材等の仕入先は次の通りである。すなわち徳島県革靴工業協同組合―以下単に県革靴組合と略称する―(資材五万二千七百四十五円)同(普通商品八万六千七百三十六円、八十足分でその内訳は男子靴一級品十四足、同特級品十七足、婦人靴十八足、同サンダル十足、子供靴十六足、ゴム底靴五足)明治屋(資材九万六百六十九円)小西商店(普通商品四千九十円)大滝商事(普通商品六万四千七百九十七円)徳島県ゴム株式会社(ゴム製品薄利品九千五十九円)東京三省堂(普通商品九千七百七十円)竹内商店(普通商品四千九百円)吉田商店(普通商品一万千八百円)ミナミ商会(普通商品八千七百円)大西商店(普通商品四千四百円)大和(普通商品三千六百九十円)河本商店(普通商品一万二千七十五円)大原商店(普通商品一万二千五百八十四円)浪花商店(普通商品二十四万六千七百八十八円)諸口脱漏分(十二万三千二百三十八円)。
(二) 普通商品に対する利潤率は平均二割五分で薄利商品のそれは一割、資材を活用してなした修理加工の分は平均五割であるが、県革靴組合より配給をうけた資材で製造した分は全部で七十二足、一足当りの売価は千三百円乃至千七百円である。
修繕料に対する場合は編上靴を短靴に改造する改装料は一足五百五十円、年間百七十二足を改造し、革靴の半張修理は半張のみを一足三百円乃至五百円、半張踵共を一足五百円、運動靴の改装は一足八十円、鞄の修理は一個十円乃至五十円で訴外竹市頼市に請負わせていたが同人は原告の雇人ではなく、親族関係にある事情もあるので右請負についてはすべて無償でなし、その間に利益を得たことはない。
(三) 以上により原告の当該年度における所謂荒利益は普通商品による利益金十四万六千六百八十六円、薄利商品販売利益金九百五円、資材活用と労賃による利益金七万千七百七十円、編上靴改造による請負益金九万四千二百五十六円、年初棚卸高より年末棚卸高を差引いた分一万九千八百五十五円、合計三十三万三千四百七十二円である。
(四) 原告の当該年度の必要経費は普通経営費十三万七百二十五円(内訳は諸税諸掛三万八千五百七円、電話料一万二百円、電燈代三千七百十円、県内交通費七千円、通信費四百五十円、大阪旅行費六千六百十五円、広告宣伝費二万六千五百円、店舗修繕費二千五百円、自転車修繕費四千五百円、文具消耗費九百五十円、接客交際費二千五百円、厚生費千五百円、研究費二千百四十八円、水関係費百二十円、借入金利子三千二百円、薬剤費千二百円、火災保険掛金千百四十円、支払手数料八百円、作業衣二千四十円、運賃一万四十五円、包装費三千六百円、購入工具千五百円)店舗の償却金三千六百四十五円(家屋償却金の六割を計上)。什器償却金二千二百五十円(ウインド、自転車等)外註工賃六万二千円(訴外池田邦夫に対する新品靴七十二足製造分、編上靴改装百七十二足分一万三千九百六十円、修繕・半張等二万千二百八十円、甲縫下請二百四十四足分一万四千円)合計十九万八千六百二十円である。
(五) 従つて前記荒利益より右諸経費、外註工賃、償却金等を減じた残額十三万四千八百五十二円(原告は十三万五千七百九十六円というがこれは計算上誤りがある。)が当該年度の純益金となるわけである。
なお原告の当該年度中に納入した取引高税は一万三千百四十円であるから逆算すると百三十九万四千九百円が原告の該年度の取引高となるわけであるから此の点からも被告の推定収入額は不当であると述べた(立証省略)。
被告指定代理人は原告の訴を却下するとの判決を求め本案前の抗弁として、昭和二十四年度当時にあつては納税者の確定申告に対し、税務署の為した更正決定額に不服のあるものは、先づ所得税法(改正前以下同じ)第四十九条の規定により同法施行規則第四十七条の要件に従つた審査請求を為すべきであるのに、原告はこの手続を為していないから本訴は訴訟要件を欠いた不適法な訴として却下さるべきである。なお原告が被告の為した更正決定に対し昭和二十五年三月二十二日被告税務署長宛の再審査請求書なるものを提出したことは認めるが、之は明かに右施行規則第四十七条に該当せぬ文書であつて、被告はいわゆる陳情書として受理したにすぎない。
本案につき原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告が肩書地において主張のような営業をなしていること。被告税務署が原告の昭和二十四年度の所得額当初五十一万円、この税額二十二万百円と更正決定し、同二十六年十月四日所得額三十二万二千八百円、この税額十一万三千七百八十円と訂正通知したことは認めるが、右決定には違法の点はない。又被告が本件所得額を認定するにあたつて、いわゆる間接認定の方法をとつたことは争わないが所得の実額調査は、取引状態を正確に記録する商業帳簿、取引に関する伝票等の提出が得られ、これによつて収税官吏が充分に調査し得ることを前提として始めて可能であるが、本件所得税額決定当時は一般に帳簿の記入等は不正確のものが多く、原告も亦殆んどその整備、記入を怠つていたので、取引関係を明確にして、その所得の実額を認定することは不可能であつたから、原告の生計費、公租公課、預貯金高の増減等を綜合して年間の支出を推計したのである改正所得税法が立法上財産や債務の金額の増減、収入支出の状況、事業の規模等により所得額の推計を為しうることを認めたのも畢竟如上の如き事情が勘案されて条理上認められていた方法を明文化したものと考えられるから明文規定が存しなかつたことを以て直ちに違法の認定方法であるということは出来ない。
而して被告が間接認定の方法によつて認定した原告の推計所得額は次のとおりである。
昭和二十四年一月一日現在の商品高二十七万九千八百七十四円、同年末二十九万二千七百三十二円
同年初出資金六千円、同年末一万八千円
(増加額中二千円は県革靴組合に対する増資払込金、一万円は徳島ゴム製品販売株式会社に対する株式出資金である。)
同預金高一万四千百三十四円、同六万九百五十三円
(増加額四万六千八百十九円の内訳は阿波商業銀行鴨島支店普通預金三万七百六十六円、同行納税準備預金五十三円、同行定期預金一万六千円である。)
同頼母子講掛金―同一万八千四百円
(納税講一万四千四百円、自転車講四千円)
同頼母子講未払金―同△三万四百円
同借入金―同△三万六千円
同公租公課―同八万二千一円
(内訳
(1) 昭和二十三年分物品税千二百七十八円、同取引高税三千八百三十二円、同所得税四万三千二百三十二円、昭和二十四年分所得税二万千六十八円。
(2) 昭和二十三年分電話加入税四百三十二円、同第一種事業税六千五百円、同県民税三千百十八円、同町民税千八百九十円、昭和二十四年分家屋税同附加税、地租同附加税千五百三円の内四割六百一円、犬税五十円)
同生計費―同二十三万八千四百六十二円
(内訳
(1) 主食費は当該年度の食糧公団米麦配給台帳が不明であつたから昭和二十五年度の受配分より之を求めた。即ち昭和二十五年度の受配額は四万七千二十二円であるが、米麦の価格の変動は十キロ当り昭和二十三年十一月一日より同二十四年三月三十一日までの間は精米三百五十七円、精麦三百三十九円、同二十四年四月一日より同年末まで精米四百五円、精麦三百八十四円、同二十五年一月一日より同年末まで精米四百四十五円、精麦四百円であつたから、係争年度の二十五年度に対する加重比率は精米八十八パーセント、精麦九十三パーセントである。米麦の配給量を等分として右比率の平均値は九十パーセントであるが当該年度には甘藷の配給が比較的多く、原告はその配給を辞退しているものとみて、且つ昭和二十五年十月以降は女中一名が増員したことも考慮し、二十五年度の受配代金の八十パーセントを本件係争年度のそれとして計算し三万七千六百十七円を計上した。この外に統制外品の主食買入代金として二万八千八百円(米の一升百二十円と推計)を計上、従つて主食費は合計六万六千四百十七円である。
(2) 副食費等は一日平均二百五十円、三百六十五日分九万千二百五十円である。一日平均二百五十円としたのは被告税務署係員が原告の妻に質問の結果得た返答で、原告家庭には発育ざかりの子供が多く居り、副食をよくしなければ食事をしたがらず、又子供達の間食にも相当かかつている事情及び原告が酒好きで家においても酒を嗜むことがある事情をも考え合せる時一日一人当り二十七円七十銭の計算は寧ろ低きに過ぎる位である。
(3) 保険料は原告が主張している額の外に簡易生命保険金千七百十二円、(原告に八百円、子供に二千三百円及び三千六百十二円の二口)日本生命保険株式会社に対する原告払込掛金五千七百八十円があるので七千四百九十二円が正当である。
(4) 医療費は鴨島町の医師糸田川信章に対する医療支払金一万七百三十円がある。
(5) ラヂオ聴取料四百二十円、原告は営業経費と主張するが生計費に計上さるべきものである。
以上の外に調味料、燃料、教育費、衣服費、寝具費、その他の被服費、交際費、電燈料、雑費等を原告主張額と同額に計算すると二十三万八千四百六十二円となる)
如上の金額の各増加額及び支出額を加減合計すると三十六万千百四十円となるのであるが、之は原告が同年中に得た所得の中より賄つたものと推認されるので少くとも右と同額の金員は原告の同年度中の所得と考えられるので、被告が所得額を三十二万二千八百円、この税額十一万三千七百八十円と決定した認定は低きに過ぎることはあつても、原告の主張する如く不当な課税処分ではない。
原告が主張する本係争年度の総収入、総支出額は以下述べる如く脱落誤謬があつて正確なものではない。即ち
(一) 総収入高について。
(1) 普通商品売上高は二万八千百五十一円以上増加さるべきである。之は後述するように普通商品仕入高が原告主張のそれよりも十一万二千六百五円増加するので、この売上高二割五分の利益を見積ると七十六万千五百八十三円以上となる。
(2) 年初棚卸製品売上高として新品靴七十四足分(単価三千円平均)二十二万二千円が計上さるべきである。
(3) 資材活用加工収入については本件年度当時は県革靴組合なる統制機関があつて組合員に製靴修繕材料、靴製品などの計画配給を行つていたのであるが、右組合は組合員を四等級に区別して原材料、靴製品を配給していたが、原告はその中二級に属し一級組合員の八十二・二パーセントに当る数量を受配していたので一級組合員受配量を基準にして原告のそれを推算すると(かつこ内は一級組合員の受配量)
(イ) 製靴原料、主原料九十八足分、金額九万三千六百三十六円(百二十足、十一万四千五百三十円。)
(ロ) 修繕材料、半張のみ十五足分、半張化粧共百二十三足分、金額合計一万九千三百九円。(十八足分、百八十一足分、二万七千七百三十五円)
(ハ) 既製靴、百五十六足、金額十九万二千六百十一円(百九十足、二十三万四千三百二十円。)
となるのである。組合員はこのようにして公定価格で配給をうけた原材料を使用して製造し、県物価査定委員会の価格査定をうけた上、その価格で自由に販売し(売却の際買受人より物資配給切符を徴集する。)その販売結果、即ち、買受人の住所氏名、販売価格等を組合宛に報告すべきこととなつていたのであるが、原告は右物価査定委員会の査定は殆どうけず、之を一足三千円乃至三千五、六百円に販売していた。又修繕代金も右組合より配給した半張材料、原価百円、半張、踵原価百三十五円乃至百五十一円の品を以て組合員が各自、自粛自制の上価格を随意に定めていたのであるが、原告は自認するように、半張三百円、半張及踵五百円の修繕代金をとつていた。従つて右により計算すると製靴による収入は九十八足分、一足三千円平均に見て二十九万四千円で、修繕費は半張十五足分、単価三百円計四千五百円、半張及踵百二十三足分単価五百円計六万千五百円、合計六万六千円。明治屋より資材を購入した分の製靴収入はその仕入高数量を原告主張のように九万六百六十九円としても、このような統制外品の皮革製造における加工収入は原料百に対し加工賃二十、利益三十の割合で求められるので、前記仕入高より推計すると十三万六千円が売上高となる。この中一万八千百三十三円が加工賃で、二万七千百九十八円が利益である。
(4) 原告は又訴外竹市頼市に鞄の製造及修理を委託し、その委託請負賃として昭和二十四年三月より同年末までに二万五千円以上を支払つており、加工賃と利益との割合は二対三即ち原料百に対し加工賃二十、利益三十であるから鞄の修理加工より原告のうけた利益は三万七千五百円である。
以上の各金額を原告の主張する総収入に加算すると百九十二万千九百四十一円になり、之が本係争年度の原告の総収入である。
(二) 総支出高について。
(1) 普通商品仕入高において原告は、県革靴組合より受配の既製靴分を八十足八万六千七百三十六円としているが、前記のように年間百五十六足として計算すると十九万二千六百十一円となるので十万五千八百七十五円が増加する。
(2) 年初製品棚卸高として原告が昭和二十三年中に作製した革靴中七十四足を計上する。この原価は一足当り材料九百円縫加工賃百円、その他百円計千百円として計算した。
(3) 年初資材棚卸高、昭和二十三年十一月二十四日県革靴組合より七十五足分の半張化粧資材を受配しておるので、その中同年十二月中に二十五足分を使用したものと推定し、残五十足分六千七百七十一円を計上。
(4) 資材仕入高、県革靴組合より靴原料分として九万三千六百三十六円、修繕材料分として一万二千五百三十八円、計十万六千百七十四円の仕入があるので、原告主張よりも五万三千四百二十九円増額される。
(5) 外註工賃、明治屋より購入した資材を竹市頼市に委託加工せしめているので、その加工賃一万八千百三十三円を附加する。
(6) 諸経費は(イ)公租公課三万千二百六十五円(内訳 事業税一万二千百五十円、自転車税三百円、電話加入税千七百二十八円、家屋税同附加税、地租税同附加税、合計千五百三円の六割九百一円八十銭、取引高税一万三千九百四十九円、物品税二千二百三十七円)(ロ)電話料九千二百四十円、(ハ)研究費千七百二十八円(原告主張額よりラヂオ聴取料を差引いた。之は家計費に入るべきものと解する)(ニ)家屋減価償却費百四十四円(家屋所得価格八千円の中六割に相当する部分を店舗と認めるので右金額四千八百円の一割の残存価格を減じた四千三百二十円について三十年の定額法により認定した)(ホ)その他の各項目は原告主張通りに計上、合計十二万四千四百九十七円。
(7) 減価償却費は二千三百九十四円が正しい。
なお年初製品棚卸高に計上した革靴七十四足についてその中の四十四足は或いは本件年度に入つてから製造されたかもしれないが、仮りにしかりとしても原告が同年一、二月に革靴資材を購入した事実は見えないので、年初棚卸資材を使用したと考えられる。従つてその場合、年初製品棚卸高は三十足三万三千円、同資材棚卸高(靴原料三万九千六百円、修理原料六千七百七十一円)四万六千三百七十一円となり、外註工賃として四千四百円(単価百円)その他の経費四千四百円(一足当り百円)計八千八百円が計上され、収入の部に年初棚卸製品売上高が九万円、資材活用加工収入中の製靴売上収入が百四十二足分四十二万六千円となつて計上されることとなるので総計額においては差違を生じない。
以上の如く計上した支出額を原告主張の分に加えると百四十七万三千五百九十二円となり、これが本件年度の原告の総支出である。従つて前記総収入額百九十二万千九百四十一円より右百四十七万三千五百九十二円を差引いた四十四万八千三百四十九円が原告の所得額であるが、この金額は勿論内輪に見積つたので実際にはこれを上廻る所得があることは容易に窺い得るのである。従つて原告の商取引の実体から算出した所得額よりみても被告の本件所得額の決定は些も過剰ではないから右決定の取消を求める原告の請求は失当であると述べた(立証省略)。
三、理 由
(一) 被告の本案前の抗弁について。成立に争いない乙第一号証並びに証人多田栄、同佐藤秀香、原告本人の供述を綜合すると乙第一号証同一形式の書面は鴨島町の町民が一般に出入する公共の場所にガリ版で印刷され備付けられていたものであること、原告は右書面が所得税法に規定する審査請求の方式を備えた用紙であると誤信し、之に本係争年度の原告の所得額が十五万四千円である旨、従つて五十万円と決定した所得額が高額にして不服であるから再審査を求める旨を記入し、収支概算書を書きそえた上、昭和二十五年三月二十二日被告税務署長宛に提出したことが認められる。右書面が見出しに再審査請求書と記入されてあり、宛名が被告税務署長となつていることは明らかに所得税法施行規則第四十七条の法定要件に適わぬものであるが、右文書がいわゆる審査の請求を求める趣旨であることは一見容易にうかがわれるところであり、又法律にうとい一般人が税法上の複雑な規定を理解しないままに法規所定の方式によらないで不服を申立てることは間々見られることであるから、これを受理する行政庁としては書面が適法のものか否かを調べ、要件不備の場合は受理を拒むか或いは遅滞なく訂正すべき旨をうながすのを相当とする。然るに本件において被告税務署が右書面を受理したことは被告も之を争わないのであり、又原告に対し右書面訂正の通知を為したことも認められないので、如上の事情を考え合せ、原告は所定期間内に審査の請求を為したものと解すべく、しかも之に対し三ケ月の間に裁決がなかつたことは当事者間に争いないから本件訴訟は行政事件訴訟特例法第二条但書に従つて適法に訴を提起したものというべきである。
(二) よつて本案について判断を進める。原告が肩書地において靴・鞄等の修理販売を業としていること。被告税務署が昭和二十四年度原告の所得額を五十万円、この税額二十二万百円と更正決定し、同二十六年十月四日所得額三十二万二千八百円、この税額を十一万三千七百八十円と訂正通知したこと、被告が右所得認定にあたつていわゆる間接認定の方法をとつたことは当事者間に争いない。原告は、所得税法に明文規定の存しなかつた本件年度において、いわゆる間接認定による課税方法をとつたことは違法の行為である旨主張するのであるが、所得の実額調査は、それが事業経営による場合ならば取引に関する出入金品伝票、備付帳簿等の整備、収税官吏の右書類等の精密な調査、之に対する納税義務者の誠実な協力等が前提となつてはじめて為しうるのであるから、これらの条件が欠けているような場合には間接的な事実から推計して所得を認定することも已むを得ないところであり、たとえ明文規定がなかつた当時であつてもそれがため所得額認定の方法として違法であるということは出来ない。此の点に関する原告の主張は認め難い。
而して原告の当該年度の事業支出について案ずるのに
(1) 証人深谷勇の証言、同人及び証人佐藤秀香の証言により真正に成立したと認められる乙第十七号証によれば、本件年度当時は皮革類は資材、製品の仕入につき統制下にあつて県下各業者は県革靴組合に加入し、同組合より製靴、修繕材料、靴製品等の配給をうけていたが、右組合は組合員を四等級に区別して右資材、製品等を配給していたこと、原告はその中二級に属しており一級組合員の約八割二分に当る数量を受配していたこと、本件年度においては右深谷は一級組合員として製靴主原料百二十足分(十一万四千五百三十円)修繕原料半張のみ十八足分、半張化粧共百八十一足分、但し九十一足分は昭和二十三年十一月下旬に配給(二万七千七百三十五円)既製品百八十六足―男子靴百九足、婦人靴三十七足、子供靴四十足―(二十三万二千百三円)を受配したこと、従つて二級組合員であつた原告は右各受配量の八割二分である製靴原料九十八足分(九万三千三百三十六円)修繕材料半張のみ十五足分、半張化粧共百二十三足分(一万九千三百九円)既製靴百五十二足(総額については原告が主張する八十足、八万七千百六十四円―原告は八万六千七百三十六円というが同人本人尋問の結果から成立を認め得る甲第七号証の一乃至四、同五乃至十三によれば之が正確である。―から平均単価を求めた場合には深谷の受配分より計出した金額より少額となるが、原告が主張する八十足の内容は男子靴に比し婦人靴・子供靴の数量が多く、しかも深谷の証言によれば、男、女、子供靴の各配分率は、組合員すべて同率であることから考えて深谷の受配分より計算するのを相当とする。右によるとき総額は十八万九千五百四十四円となる。)を割当てられたと推認される。原告は右組合よりの既製靴年間配給量は八十足と主張するのみで配給を辞退したことがあるかどうかについては明らかにしないが、深谷の証言により右既製品の中には時折粗悪品もまざつていたこと、しかし乍ら深谷は自己の配給を辞退したことはなく、絶対量が不足していた当時としては業者は配給をうける方が有利であつたと推察される事情などを考え合せると、原告が受配量の一部を棄権したとしてもせいぜい一割程度にすぎないと見るべきである。従つて右既製靴受配量は百三十七足(十七万八百三十九円)となるので普通商品等仕入高において原告主張額の外八万三千六百七十五円が計上されねばならず、右商品が原告主張の如く二割五分の利益率を以て販売されたことを考えると同売上高において二万千二十五円が加算されねばならない。
(2) 証人美馬芳文、同河野幸一の証言、証人佐藤秀香の証言により成立を認め得る乙第二号証及び証人住友徳吉、同近藤久の証言により成立を認めうる乙第十八号証を綜合すると原告は当該年度において注文による新品靴(男子靴)を三千円乃至三千五百円で販売していたことが認められ、(尤も成立に争いない甲第二号証によれば原告は訴外鎌田文雄外三名に千六百円、同住友福子に千五百円、同福本康幸に千七百円で夫々販売したようにみられるが、佐藤の証言により真正に成立したと認められる乙第二〇号証の一、二及び前記各証拠などから考えると右各金額は原告が実際に販売した価格よりも相当低いものであることがうかがわれる)他に右事実をくつがえす証拠は存しないので原告は注文による新品靴を被告主張の如く一足三千円平均で販売していたものと認める。而して前述証拠によれば原告は本件年度において県革靴組合より製靴主原料として九十八足分の配給をうけたことがうかがえるので、右原料により九十八足の新品靴を製造販売したものとして計算すると、(通常婦人靴は男子靴に比して稍々安価であるから右の中約二割を婦人靴と推定し単価を二千七百円と計算)売上は二十八万八千円となる。同様に修繕材料半張のみ十五足分、半張化粧共九十八足分(前述深谷がその九十一足分を昭和二十三年十一月下旬に配給された事実より、原告も之に相当する七十五足分を同じ頃配給されたと見て同年中二十五足を使用したものと推定する。一ケ月の使用量として二十五足が限度であろう。)の受配量を原告主張の如き単価で計算すると五万三千五百円の収入となり、又原告が自認する明治屋より購入した資材により製造した靴製品については乙第二号により原価の二割を加工賃、同三割を利潤として得たものと推計すると(加工賃は一万八千百三十三円、利益は二万七千二百円)売上は十三万五千九百三円とならねばならない。従つて原告主張の資材仕入高は十四万三千四百十四円であるが、前記県革靴組合よりの受配量を含めれば十九万六千八百四十三円となり、同じく右資材を活用加工して得た収入は四十七万七千五百円、原告主張額よりも二十六万二千三百七十九円増額されねばならない。
(3) 又原告は被告が年初製品棚卸高新品靴七十四足分八万千四百円及び昭和二十三年十一月二十四日県革靴組合より半張化粧用として受配した七十四足分の中五十足分の資材六千七百七十一円は何れも原告が年初棚卸高として主張する二十六万九千八百七十四円に含まれている旨、そして右が同年末棚卸高にそのまま計上されてある旨主張するのであるが右商品資材が原告の主張する年初棚卸高に含まれぬ旨の被告の主張は之を認むべき証拠はないので、この点の被告の主張は容れ難いが右半張化粧用資材五十足分が本件年度末まで未使用のまま残つていた事実は証する何等の証拠もなく、右資材の年間配給量が極めて少ないことから、寧ろ需要に応じられぬ位であると推察されるので右資材分が年末棚卸に計上されてある旨の原告の主張は措信し難い。そして新品靴についても同じく右が同年末まで売残つた事実を認むべき証拠なく反つて成立に争いない甲第三号証によれば(但し価格の点は前述認定の如く措信しない)昭和二十四年年頭より同二月頃までに十三足を販売していること及び通常の場合年初棚卸商品はその年度に入つて製造される品に先んじて売れて行くものであることや、本件年度当時は皮革製品が統制下にあつて、需要に対し不足勝ちであつた点等より考えると同じく同年末までには販売しつくしたものと見るのが相当である。従つてその売上高は原告主張以外に新たに計上されねばならないが前記認定の如くその単価を男子三千円、婦人靴二千七百円とすれば、婦人靴が約二割を占めるものとして二十一万七千五百円となる。而して年末棚卸高は差引八万八千百七十一円減額さるべきである。
(4) なお外註工賃は被告において八万百三十三円を計上するが、県革靴組合より配給された資材を以て製造した新品靴の数量を九十八足とすると右製造に要した外註工賃は一万七千六百四十円となるから(七十二足分が一万二千九百六十円であるとの原告の主張を被告は争わない)総額八万四千八百十三円とならねばならない。
以上認定の各金額を以て原告主張の収支を修正すると総支出において普通商品仕入高は六十七万八百四十九円、資材仕入高が十九万六千八百四十三円、外註工賃八万四千八百十三円となり、総収入において普通商品売上高が九十七万千九百五十七円、資材活用加工収入四十七万七千五百円年末棚卸高二十一万千五百六十二円となるので、その他の項目について仮りに原告主張の通りであつたとしても、総支出は百三十七万八千五十九円、総収入は百七十六万五千二百四十四円、差引所得は三十八万七千百八十五円となつて被告が更正決定した三十二万二千八百円を超過するのである。従つて其の他の主張に対する判断をまつまでもなく原告の昭和二十四年度所得額を三十二万二千八百円、この税額十一万三千七百八十円と決定した被告の処分には違法の点がないのでその不当を主張して変更を求める原告本訴請求は理由なきに帰する。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用の上主文の通り判決する。
(裁判官 今谷健一 小川豪 永石泰子)